トキファントップページ写真 撮影小話(3)

佐渡島も少しずつですが暖かい日が増えてきました。トキたちも繁殖期に入り、きれいなトキ色の羽は黒ずんだ生殖羽に変化しています。今回の1枚は、トキが自分の背丈よりも大きな枝をなんとか巣に持ち帰ろうとしている場面で、「枝運び」という巣づくりの行動です。
トキが、大きくて重たい枝を巣に持ち帰りたいのは、土台をガッチリとさせたいからでしょうか。なんとか嘴で持ちあげますが、枝はクルクルと回り落としてしまいます。そんなことを何度もくり返しながらやっとのことで飛びあがっても、重くてバランスを崩し、枝を落としてしまうことも多いのです。
トキはオスとメスとで協力して巣づくりを行いますが、はじめの段階ではオスが枝をひろって巣に持ち帰り、メスがそれを受けとり組み立てていきます。巣は林の中にあるため、巣の完成具合はわからないのですが、“もうすぐ産卵”というのはわかります。それはトキの運ぶ巣材が、枝から柔らかな苔や枯れ草へと変わるからです。卵がのる産座(さんざ)とよばれる部分は、柔らかな巣材でつくられます。
そして、産卵が終わった後も巣づくりは続きます。雛の成長にあわせて巣を大きくしていく必要がありますし、春の嵐による強風で巣が崩れることもあるからです。親鳥は、雛が巣を離れる“巣立ち”の6月頃まで、休みなく補修作業を続けるのです。
年間を通して様々な表情を見せるトキですが、私が新聞社のカメラマンであった15年前のトキ野生復帰当初は、トキの生息数は少なく、繁殖期は取材自粛が求められていました。そのため、トキのメインイベントである繁殖期の写真はほとんど持っていません。今年もトキの枝運びがはじまりました。これまであまり見ることのできなかった繁殖期のトキの様子を眺めつつ、毎朝の撮影に励んでいます。

【 撮影者紹介 】
大山文兄(おおやま ふみえ)
産経新聞で2008年のトキ初放鳥から野生復帰取材を継続し、退職後の2020年に佐渡移住。トキのエサ場となる4町歩のほ場管理を行いながら、四季折々のトキの姿を撮影。写真集に「トキ物語 佐渡島から」(産経新聞出版)
https://www.instagram.com/tokigrapher/