冬のトキの暮らし

今回、トキファン会員プレゼントにご応募くださった皆様から、冬のトキに関していくつかの質問が寄せられました。
これについて環境省希少種保護増殖等専門員の岡久雄二さんにお聞きして、私なりにまとめてみました。(「 」内が皆様からの質問です)
「これから佐渡は雪が降り、寒くなりますが、この季節、朱鷺は何処で暮らしているのでしょうか? 」
季節によってトキの暮らし方は変化します。春から夏にかけて島内の各地に分散していたトキが、秋になると群れになって平野部に集中するようになります。12月の今も、田んぼの中で10羽以上のトキが一緒にエサをとっている姿を見かけます。
しかし、1月下旬から2月頃になるとそろそろ繁殖の準備が始まり、再び分散して暮らすようになります。餌場も変化し、厳冬期には山裾の水が湧いている所など、雪が解けていてエサを捕りやすいところを見つけて採餌しています。

「トキは、寒さにどうなんでしょうか?」
鳥は羽毛を身に着けているので体温が高く、一般的に寒さには強いです。かえって暑さの方が苦手で、くちばしを開いて「ハアハア」と呼気で熱を発散したり、トキの場合は羽毛のない赤い顔や脚からも熱を放出したりして体温を下げています。
「佐渡の冬のエサを考えると、どこでトキの数が限界なのか?もし限界を越えたらどうなるのでしょうか?」
トキの死亡率が高いのは冬ですが、原因の一つとして、11月頃から佐渡に渡ってくるオオタカやオオノスリなどの猛禽類に襲われることが挙げられます。また、新規放鳥個体の死亡率が高く、これは野生下での経験が浅いために上手くエサを見つけて捕れないことが推測されます。
冬の代表的なエサ、トップ3を紹介します。
- マルタニシ 水があるところにいます
- ガガンボ類の幼虫 田んぼに残っている稲株の根元でいっぱい見つかります
- ミミズ 土のある場所なら比較的どこでも見つかります
多様な環境の中で、トキはそれぞれの場所にいる生きものを上手く見つけて食べているのがわかります。
トキの数の限界については、10月8日に開催された第20回トキ野生復帰検討会の資料で637羽という数字が出ています。これは年30羽の放鳥を継続した場合のシミュレーション結果です。最多で1,500羽、最少で300羽という幅がある数値の中央値であり、毎年変更されますが、現段階での数字です。
そして限界値を越えたらどうなるかですが、死亡数が増える、育つヒナの数が減る、島外に出ていくトキが増える、の3つの可能性が考えられます。
「温暖化は、トキの生育増殖にどのような影響があるのでしょうか。生態系の変化で環境が変わることも視野に入れた保護活動、課題も増えてくるものと思われます。」
例えば、巣作りや抱卵といった営巣期に暴風が吹いて巣が落下すると、繁殖率が低下することがわかっています。温暖化による異常気象によって春の嵐が頻発すれば、トキの繁殖にマイナスに働くでしょう。また、トキの餌場や餌生物にも影響が出てくると思われます。
温暖化による様々な変化に対応し種を存続させるためには、トキがなるべく国内のいろいろな地域に広く分布し、多様な環境で生活していることが重要だと思います。