第19回トキ野生復帰検討会の報告

トキ野生復帰検討会では10名の検討委員が専門的な立場から飼育下及び野生下のトキの状況等について話し合います。その第19回検討会が、令和3年2月16 日(火)に新型コロナウイルスの感染拡大防止のためWEB 会議で開催されました。傍聴は事前の申し込みで10名まで。佐渡トキファンクラブ事務局仲川も、いち早く申し込みしっかり傍聴しました。

議題は次の5つでした。
(1)トキの飼育繁殖の状況等について
(2)野生下のトキの状況等について
(3)放鳥計画について
(4)ロードマップ2020の評価及び次期ロードマップについて
(5)トキ保護増殖事業計画について

約2時間半の会議の中から、トキファンHPで取り上げた「個体数の増加が緩やかに?(令和3年1月20日の記事)」に関連した“そこが知りたい”内容をわかりやすーく報告します。(資料と会議に基づき仲川が編集)

【そこが知りたい】トキの生存率と繁殖率を高めるための提案

1.若いトキを放鳥しよう
2.いろいろな場所でいろいろな餌を食べられるようにしよう
3.テンから卵やヒナを守るため、木に登られないようにしよう

「もうちょっと詳しく知りたい」と思った方は次へ進んでください。

会議では、前提となる野生下トキの生存率低下について報告がありました。

生存率の推移:2017 年から春放鳥・秋放鳥を問わず、新規放鳥個体の年生存率が低下を続けている。また、野生生まれの幼鳥、成鳥の生存率も2019 年には前年から15%程度低下したと推定される。2019 年の生存率を維持した場合であってもトキの個体数は増加傾向を維持する見込みであるが、生存率の推移を注視する必要がある。

その後、死亡原因についての考察と、それに基づいて生存率低下への検討課題や繁殖期の対応方針が提案されました。

その中で私が注目したのが以下の3つです。

1.若いトキを放鳥する
 若齢で放鳥した個体ほど生存率が高いことから、若齢での放鳥を徹底し、できるだけ1歳の個体を放鳥する。3歳以上の個体については秋放鳥の年生存率が0%となっているため、原則として春に放鳥する。放鳥の上限は6歳程度までとする。(3歳以上の個体は群れ合流が顕著に遅く、既にトキが生息している場所へ定着しづらいことで、密度効果の影響を受けやすいことが考えられる)

2.いろいろな場所でいろいろな餌を食べられるようにしよう(採餌環境の多様性を図る)
1)順化ケージ内の採餌環境
 一部の新規放鳥個体はビオトープでの採餌が目立って多い。これは順化ケージや野生復帰ステーション等の給餌環境に類似しているためであるかもしれない。野生下で生存するためには多様な環境(江、ビオトープ、水田、畦、河川・水路等)で採餌することが必要であるため、順化ケージ等において休耕田の類似環境を造るなど、採餌環境の多様性を高めるとともに、順化ケージ内への落ち葉、堆肥の持ち込み等によって地上徘徊性昆虫やミミズを増やすように努める。

2)野生下の採餌環境
 トキの生存率低下を抑制するために、引き続き、関係機関や地域住民と連携・協力して、生息環境整備に取り組む。特に、江、冬期湛水水田、不耕起水田、ビオトープは通年利用できる餌場としてトキの生存のために重要な役割を果たしていると考えられるが取組面積は減少しているため、取組みを活性化する方策を検討する。

3.テンから卵やヒナを守るため、木に登られないようにしよう

テンによる営巣木登攀(えいそうぼくとうはん)を防止するために、ポリカーボネイト製波板を営巣木に巻き付ける等の対策を積極的に実施する。なお、過去にテンによるヒナの捕食が確認された地区および本年の繁殖期にテンが観察された林、ヒナの孵化が確認された営巣木で優先的に対策を行う。

この中で佐渡の私たちに一番関係するのは2.2)野生下の採餌環境です。餌場としての取り組み面積の減少が懸念されていますが、これは農家の高齢化や消費者の米離れで、田んぼが耕作放棄されていくことも大きく関係しています。日本の米(食)と生きものの棲みか(環境)を守るには、どうしたら良いか。これを解決してくれるのが「トキ」だとありがたいのですが。