トキの野生復帰を支える人
環境省希少種保護増殖等専門員 岡久雄二さん
放鳥から12年目を迎え、野生のトキの数は順調に増えています。そこには様々な人々が様々な立場で関わり、支えている姿があります。今回はその中のお一人、岡久雄二さんをご紹介します。
毎年発表される野生下のトキの繁殖結果ですが、今回初めて「推定値」として発表されました。
足環をつけていない個体が増えたことや全ての営巣を把握することが困難になったことで、モニタリング(目視や写真での確認)だけでは繁殖に関する数字を割り出すことができなくなったためです。この推定値って、どんな人が出しているの?
そんな疑問を持って、野生復帰ステーション内の環境省佐渡自然保護官事務所に伺いました。「推定値」を算出している方がこちら、岡久雄二さんです。

インタビューに答える岡久さん
岡久雄二さんは山口県岩国市のご出身です。住んでいたところは山、川、海のある地域とのこと。中学生のころ通学途中に友達がイノシシに襲われたことがあったそうで、このころから人と生きものの共生という課題に直面していたんですね。その後、東京農工大学の学生として、野生動物保護管理研究室で害獣としてのサルやシカの研究をする傍ら、子どものころから鳥が好きだったので、富士山の樹海でキビタキの繁殖についても研究していました。立教大の大学院を卒業後、研究プロジェクトとしてニューカレドニアでカグーなど希少な固有鳥についてさらに本格的に調査研究を行ったそうです。このような研究の中で行っていた統計解析の手法がトキの野生復帰事業でも役に立っています。

岡久さんの任務はトキの野生復帰事業の科学的評価を行うことです。トキの生存個体数や繁殖ペア数、生息分布、社会性など、モニタリングのデータをもとに野外の状況を的確に把握し、分析して生存率や繁殖成績などをまとめます。それらは環境省や新潟大学など、トキ野生復帰事業で活用され、成功点や課題などを検証して次のステップに向かうための資料になっています。
昨年の12月にはトキが繁殖期に入ったことを表す羽色変化が確認されたとのことなので、岡久さんにトキの繁殖結果に影響する要因についてもお聞きしました。
その年の繁殖結果に影響する要因の一つは繁殖期前半の天候だそうです。1月、2月に天気が悪く日照時間が少ないと、トキが巣作りなどの繁殖行動に取り掛かる時期が遅くなるという結果が出ています。冬が厳しいと餌が取りづらくなるので、それが影響するのではないかとのことです。

巣の材料を運ぶトキ
次に、4月ごろには抱卵が始まりますが、その時期に強い風が吹くと抱卵をやめることがあり、繁殖率が低下する要因となるそうです。

卵を温めるオス(右)と交代に来たメス(左)
最後に「岡久さんは、トキはどんな鳥だと思いますか。それから佐渡の環境はどうでしょう」と尋ねました。
「トキは日本の自然保護のシンボルだと思います。トキの保護といえば、鳥に興味がない人にも伝わる、まさにシンボル的な存在です。」
「佐渡は住みやすくていい島です。トキも順調に増えている。しかし、課題もあります。水田はトキの餌場になっていますが、農家の高齢化に伴い耕作放棄が進行しています。河川も、トキ交流会館近くの天王川で自然再生の川づくりが始まりましたが、トキの餌場になるような河川が不足しています。森林も二次林が手入れされていない状況にあります。このような課題を解決するためにも、トキの野生復帰が何らかの助けになればいいと思います。」
岡久さん、どうもありがとうございました。