離任のご挨拶(佐渡自然保護官事務所)

夕方になると鬼太鼓の練習太鼓の音が鳴り響き、トキの繁殖期もいよいよだなと思っていた矢先ですが、このたび、北海道地方環境事務所野生生物課に異動することとなりました。佐渡在勤中の2年間、皆さまには大変お世話になりました。限られた時間でしたが、一年目には佐渡市主催のトキ野生復帰シンポジウム、二年目には佐渡トキ野生復帰10周年記念事業、そして11年ぶりとなった中国からの新たな個体の提供受け入れなど、ちょうど放鳥開始から10年という節目にあたったこともあり、大きなイベントに携わらせて頂けた幸運を改めて実感しております。
また、着任当初からトキを活用した観光・地域振興を掲げて業務に取り組んで参りましたが、「トキのテラス」の建設や「トキのみかた停留所」の設置などを通じた地域の皆さまとの議論・検討の中で、トキを保全しながら活用し、地域のメリットとして還元する機運の醸成や枠組み構築の端緒を開くことは出来たのではないかと自負しております。これもひとえに、皆さまの温かいご支援、ご協力、ご理解の賜であり、厚く御礼申し上げます。
今後のトキ野生復帰事業の展望としては、いかに多くの方を巻き込めるか、そして100年にも亘る佐渡のトキ保護の成果をうまくPRしていけるかが鍵になると考えています。トキを守ることが佐渡を守ることに繋がる、トキがいることで自然・文化の側面だけでなく、経済的にも佐渡が潤う、こういう構図を成り立たたせていくことが、世界に誇れる希少種保全事例である佐渡のトキ野生復帰事業の次の展開における大目標であり、希少種の保全が地域の維持・活性化に繋がる、新たなモデルとしての姿を佐渡が見せてくれることにぜひ期待しています。そして、野生下のトキの増加と分布拡大に向けた展開は、今後、数年間で大きな転換点を迎えます。何羽までトキを佐渡で賄うことができるのか、本州へオスが、またはペアや群れで飛来するということも想定される段階に入っており、かつて日本全国で普通に見られたトキの姿を取り戻せるのかという局面が見えてくるように思います。そうした中で全国に大きな示唆を与えてくれるのが、佐渡でこれまで積み上げてこられた取組やトキとの関係性です。実際に本州でトキが多くみられ、特定の地域で生息・定着が確認されるようになれば、学ぶべき先行事例として多くの方が視察・研修で来島されることが予想されます。これまでも評価されております先行事例としての農業面や市民のトキとの共生概念もさらにブラッシュアップして頂き、「やはり佐渡は凄い」と視察・研修で来島された方々が思わず唸ってしまうような、これまでの取組の更なる発展にも期待しています。
結びに、異動後の当方の担当の一つとしてタンチョウに携わらせて頂くこととなっています。タンチョウはトキと同様に農業と密接に関係している希少鳥類であり、佐渡で学ばせて頂きました多くのことを活かしていきたいと考えております。また、トキと同様に観光への活用や農業との軋轢など共通したテーマも多いと聞いておりますので、引き続き、連携・協力をさせて頂きつつ、人と自然の共生社会の実現を目指し、切磋琢磨できる関係を築ければと勝手ながら考えております。そして、佐渡およびトキの応援団として、PRなどの当方が出来ることを、今後もライフワークとして取り組んでいきたいとも考えておりますので、今後は別の立場からになりますが、引き続き、宜しくお願い致します。 環境省 首席自然保護官 若松徹