10. 佐渡、福井、神奈川から学ぶ生物多様性と地域社会づくりの技法
佐渡島におけるトキの地域社会づくり、福井県越前市における希少野生生物保全指導員制度、神奈川県秦野市における生き物の里づくりにおいて、
それぞれの地域で調査手法を通じた地域社会づくりの誘因と計画づくりを行っている。
佐渡島におけるトキの地域社会づくりでその手法の目的と効果を概説したが、本章では、4.1で計画づくりの概要を紹介し、
4.2で具体的な調査手法を「地元学」として概要を紹介する。
11. 計画づくり
生物多様性のための里地里山保全再生における計画づくりとは、関係する主体が里地里山に「現代的な新たな価値」を見つけ、
里地里山の保全や維持管理を継続する意義を見つける作業である。
里地里山の保全再生を行う場合、地域でどの範囲の里地里山を対象にするか、
その里地里山の保全再生を実行していく主体は誰かを最初に考える必要がある。新たに取り組む里地里山だけでなく、
これまで保全再生活動が行われてきた地域でも再検討することで、保全再生活動が活性化することを目指すことになる。
この計画づくりには、多様な主体の調整を行い、実行の中心的な存在となるコーディネーターが必要である。
コーディネーターの重要な資質は調整能力であり、特に地権者との調整は、保全再生活動にとってきわめて重要である。この能力は、
地権者からの信頼を得ていなければ発揮できず、自ら進んで地権者等の農家と作業を行い、人格的にも信頼が得られる人が望まれる。
このコーディネーターの能力は、里地里山での現場経験を積むことによって育まれていくため経験も重要な要素である。
【対象範囲の決定】
里地里山は、もともと人が自然に働きかけ、持続的な農林業・生活を行ってきた場所である。計画づくりの対象範囲は、
集落とその集水域にある二次林を一つの範囲として考えると主体となる地区住民の理解が得られやすい。
【新たな協働を創出する調査と計画づくり】
計画づくりは、調査、試行、検討の段階を経て実行段階に入る方法が有効である。計画づくりの過程を通して、
参加する一人ひとりが対象範囲の里地里山の問題に対する危機感を理解し、活動の動機となる新たな価値を共有し、
課題克服に向けた意識を形成できるようにするためである。
そのためには、計画づくりの調査段階から、その後の里地里山に関わることが望まれる多様な主体が参加することが望ましい。
調査段階において、多様な主体が長年にわたり農林家等としての経験を積んでいる地域の人とともに現地を歩き、
里地里山の自然の現況を把握するとともに、地域で継承されてきた技術と知恵、生活文化を学ぶこと
から、多様な主体による協働がはじまる。自然環境調査と社会環境調査の役割を合せ持つ協働のための調査手法として「地元学」を行い、
計画と推進体制の基礎を行うことをお勧めする。
【推進体制】
多様な主体による協働、地域との社会的合意形成を基本的な原則として推進体制をつくる。里地里山に手を加えるにあたっては、地権者や農林業者、
近隣の住民などが主体となって、話し合い、地域の社会的な合意を形成して取り組むことが必要である。
計画づくりに参加した各主体が継続的な協議と評価の場として、推進協議会等の推進体制を整えると活動に広がりと継続性が生まれる。
計画策定過程では、試行を行い、各主体、地権者・農林家等、周辺住民等の評価を勘案し、その後の計画を作り、本格的な保全再生作業に入り、以降、
実施と点検・フォローアップを通じて、計画の見直し、活動の拡大をはかることができる。
12. 地元学
計画づくりに必要な自然環境や、社会環境の調査は、「地元学」の手法を用いる。この手法は、老若男女が一緒になり、
参加者全員がそれぞれの立場からそれぞれの関心に応じて参加し、その調査結果を全員で共有する方法をとる。
この調査を通じて参加した一人ひとりが、里地里山と自分との関わりや課題、つながり等を発見するきっかけとなることから、調査であるとともに、
保全再生活動への参加意識を高める役割もある。
【地元学】
地元学とは、地域にある自然資源と人材資源を住民自身が共有する作業である。住民自身が、自分たちの地域を、地域外の人の目を借りながら、
実際に歩いて調べ、調べたことを伝え語り合い、
その内容を元にこれからの地域での暮らし方や地域の保全のしかたを考えていくワークショップであり、実際に地域(地元)を歩いて調べ、
地域資源と地域の人材を再確認する過程で、地域内のコミュニケーションは活発になり、将来のこと、
子どもや孫に引き継ぎたいことを明らかにすることができる。地元学は、「調べた人、参加した人がくわしくなる」実践のワークショップである。
【地域にとっての自然、技術や知恵、生活文化を学ぶ】
地元学では、調査も住民自身が中心となって行うが、自然環境や社会環境を調べる際の「先生」(調査対象者)も、地域の人である。
地域に根ざした暮らしを長年続けている農林家のおじいさん、おばあさん、大工等の職人、食文化を継承する女性達の智恵や技術、
視点を学びとることが重要となる。外部者や地域に住んでいても仕事や生活の面で地域との関わりが薄い人達は「生徒」
になって習得をすることになる。
外部者は、指導者ではなく地域では得られない視点を提供する存在として必要である。地域(地元)では「あたりまえ」
であっても外部から来た人が驚いたことがあれば、それは地域の大切な個性となる。動植物等の名称も、地域の呼び方(方言を含む)
を尊重して記録する。
【調査手法】
準備するもの 白地図(5千分の1~1万分の1)、カメラ、色鉛筆、記録用紙(地域資源カード)
手順
1.写真を撮る:歩いていて見つけたもの・出会った場面・驚いたことなど、写真に撮る。あとで地図づくりをするときのために、
写真をとった場所を、地図に書きとめておく。
2.写真の内容について話を聞く:何の写真か、地域での呼び方や使われ方、食べ方、成り立ちや物語を地域のくわしい人に聞きとり、写真を貼って、
地域資源カードを作成する。
3.まとめる:自然、生きもの、作物、食、道具、人、技術、しくみ、知恵、農事暦、山仕事、野遊び等のカレンダーなどを集める。
これが地域の貴重なデータベースになる。
本稿は、財団法人日立環境財団の機関誌「環境研究(148号 2008.2)」寄稿文に加筆したものである。http://www.hitachi-zaidan.org/kankyo/book/00148.html
里地ネットワーク事務局長 竹田純一
中央大学法学部卒。金融機関、英国技術開発シンクタンク、日本リサイクル運動市民の会(らでぃっしゅぼーや)
を経て現在里地ネットワーク事務局長(財)水と緑の惑星保全機構次長。
トキの野生復帰連絡協議会事務局長、自然再生を推進する市民団体連絡会事務局長。
地域活性化伝道師(内閣府)、田園自然再生コンクール審査委員(農水省)、こどもホタレンジャー審査委員(環境省)、
森づくりコミッション運営委員(林野庁)、美しい森づくり運営委員(林野庁)他。
著書
『森里川海の自然再生』(中央法規)、『みなまたの歩き方』(合同出版)、『2100年未来の街へ』(小学館)『実践コミュニティービジネス』
(中央大学出版)、『日本法制の改革:立法と実務の最前線』(中央大学出版)など。

