TOP >> レポート >> トキの野生復帰と地域社会づくりの経過 (5) 福井県での取り組みと生物多様性 ▼戻る▲進む

8.福井県越前市におけるアベサンショウウオの保全と地域社会づくり
(環境省里地里山保全再生モデル事業による取り組み事例を参考に)

福井県越前市におけるアベサンショウウオの保全と希少野生生物保全指導員のしくみ絶滅危惧種1A類のアベサンショウウオは、 京都府下丹後地方、兵庫県下但馬地方で生息が確認されていた種であるが、平成12年福井県越前市白山地区(当時、武生市)で発見され、 その後の生息地域等の調査を元に、福井県は、平成14年より生息環境保全のための地域計画づくりを始めた。当時、福井県が参考としたシナリオは、 トキの野生復帰のための地域社会づくりであり、計画策定を通じた地域社会づくりを行い、生物多様性を保全するシナリオである。

アベサンショウウオは、日本産の小型サンショウウオ類で、生息環境は、二次林などの森林内部にあり、繁殖期の12~1月には、 林内から湧水に下り産卵し、再び林内に戻るため地域社会の中でもほとんど生息が知られてこなかった種である。越前市には、 アベサンショウウオの他にも、環境省RDBの40種、福井県RDBの70種近くが生息している「生き物にぎわいの里」(越前市)である。

越前地域は、南条山地・丹生山地と武生盆地の間、標高150m地点にある約50k㎡の小盆地で、鬼ヶ岳(533m)、若須岳(564m)、 矢良巣岳(473m)、金華山(398m)等の山を除いては、低地100~140m・頂部250~350mのなだらかな丘陵地形を呈している。 丘陵は主にコナラ等の広葉樹林に覆われており、二つの河川の水源となる湧水が丘陵を刻み、無数の小さな谷を形成している。 広葉樹林に涵養された湧水は谷に開かれた水田を潤し、さらに低地の水田を潤して川へと注いでる。このように、 複雑な地形が土地利用に反映されるとともに、地域一帯が水源地帯となっており、集水域の大きさに照らして比較的豊富な水を送り出している。 人口は、32 集落、人口2,860 人が居住する地域である。

希少種の両生類を含む生物の生息環境は、この里地里山の全域に及んでいる。杉林、雑木林、溜池、湧水、湿地、水田、水路、農家の庭先、 農家の家屋敷さえも生息環境の一部としてとらえられる。
両地区には、大きな商業施設の看板やコンビニエンスストアはなく昔ながらのよろず屋がある。三面張りの川やU字溝が少なく土水路が多い。 プレハブ住宅が少なく瓦屋根の伝統的な民家、特に、江戸時代後期以降各地に広がった田の字型建築物が立ち並ぶ田園風景がある。

【地権者の暮らし方と意識が左右する希少種の生息環境】
当時の福井県環境部局は、アベサンショウウオを含む生物の乱獲や植物の盗掘等を監視する監視員制度の創設と希少種の生息環境である里山、湧水、 湿地、水路、水田の保全を効果的に行うためのしくみづくりを模索していた。この対象となる場所は、家屋敷と周辺の里山、湧水、湿地、農地であり、 ほぼ私有地、共有地である。そのため、地権者が主体的に管理するか、地権者からの許可を得て管理する必要があり、 地権者の協力なしに地域計画づくりは成り立たない。保全対象となる生物の生息環境は、10キロ四方に渡るため、32地区住民による直接・間接、 積極・消極を問わないさまざまな形の協力が必要になる。

【希少生物を保全するビジョン】
福井県越前市における希少野生生物を保全するビジョンは図表の通りだが、地域づくりと生物多様性の観点から特に注目すべきは、「人づくり、 組織づくり」を当面の課題と位置づけ、人材育成のための研修会(希少種が生息できる環境整備活動)を通じて、希少野生生物保全指導員(以下 「指導員」と略す)を養成し、希少種の監視とモニタリング、生息環境整備を行っている点である。また、外部との交流による地域産品のブランド化、 小中学校の授業で専門家をゲストティーチャーとして希少種の保全を現場で学ばせる点である。

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【希少野生動物保全指導員と研修会】
指導員は32地区から他薦自薦で選ばれた人材であり、地区毎に指導員を配置している。外部者が地区内を監視するのではなく、 指導員は地域住民の代表として、自らの地区内の水辺や里山を見て回るため、地区住民からの信頼と協力が得られる。日常の監視活動は、 希少生物に対してだけでなく、不審な行動をする外部者への監視が強まることから子どもの安全等、防犯に対する意識も高まり、 地域としてのまとまりを取り戻すことになった。

この希少野生生物保全指導員事業は、福井県が平成17年度から開始した事業である。現在は、人材育成の第2期目にあたり、 延べ60名が指導員として活躍している。

【農地・水・農村環境保全向上対策と指導員の役割】
平成19年度にスタートした「農地・水・農村環境保全向上対策」事業では、指導員制度が重要な役割を果たす。 指導員及び指導員の会が農業者組織とともに生き物調査等を行うことで、農業者全体が生物多様性と共生の意識を高めることができた。

平成19年度は、32地区の内17地区が本事業に取り組み、17地区すべてが誘導部分での生き物調査を実施した。また、 白山坂口地区外の越前市全域(85地区の内の11地区)に関しても、指導員の会に対して生き物調査の指導依頼があり実施している。

【推進体制の構築】
越前市、福井県、環境省等によるモデル事業等を通じて、希少野生生物の保全、里地里山の保全方策の検討を行いながら各事業を構築してきた。 その中から、白山・坂口では、活動を推進する組織「水辺と生き物を守る農家と市民の会」が結成され、地域づくりを主導している。 これまで同会により実施された活動の概要は以下の通りである。
・アベサンショウウオの産卵調査とモニタリング、監視活動。
・谷津田、溜池、湿地型等、多様な生物たちのための生息環境整備(30ヵ所)
・小中学校と連携して、水田魚道の設置やビオトープづくりを毎年実施。地域と小中学校との関わりは、 年間30時限を越える指導を地域が行っている。
・福井大学、福井工業高等専門学校と連携した調査、保全活動を実施
・市民参加250人が参加したブラックバス、アメリカザリガニ駆除活動
・生活文化調査活動(3地区)
・農産物の白山ブランド化やエコファーマーの登録活動
・白山園芸部35名全員がエコファーマー認証取得
・都市のこども達50人が参加したエコキャンプの実施
・兵庫県へのコウノトリ里研修

 

[ 2008年07月02日 | レポート ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]