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■ トキ・メッセージ5 佐渡トキの田んぼを守る会代表・斎藤真一郎さん

斎藤真一郎さん 

斎藤真 一郎さんは新穂青木地区でお米、リンゴ、柿、ネクタリン、桃、いちごなどを栽培し、(有)斎藤農園を経営しています。 トキの田んぼを守る会の代表として農薬の使用を減らしたお米の栽培や無農薬・無化学肥料での栽培をしています。「不耕起栽培」 という田んぼを耕さない農法や冬に田んぼの水を抜かない「ふゆみずたんぼ」という農法にも取り組んでいます。
斎藤さんに農業と生きものの関わり、トキと人の暮らしについてお聞きしました。
(インタビュー・文責:トキファンクラブ事務局)

●不耕起栽培で田んぼが変わった
平成13年に旧新穂村がトキの餌場づくりとして不耕起栽培を行う人を募集し、新穂、金井、両津、畑野、真野の5地区から7名が集まりました。
田んぼ作業は、春先に忙しく、1枚の田んぼで2、3回トラクターに乗って耕さなければいけません。だから、 田んぼを耕さなくてもいい不耕起栽培は労力的にもコスト的にも効率のよい栽培方法だと思い取り組みました。 最初は気持ちの中でトキは二の次でした。
それまでは農薬などを使う普通の農業をやっていて、田植えをしたらできるだけ田の水の中に入らず、 田んぼでは周りのあぜを歩いてイネの育ち具合だけに気を配っていました。田んぼにはイネしかないほうが良くて、田んぼの虫や草は「邪魔者」 で、田んぼは米の生産工場だと見ていました。
減農薬や無農薬で栽培すると、草取りで必ず田んぼに入るようになります。不耕起栽培の田んぼの泥の中に足を入れ、 草取りをしているときにふと顔をあげるとヤゴが脱皮していたり、イネにとまる虫や水の中の生きものを発見しました。 「田んぼで命が生まれているんだな」「俺は、今までこういう虫を殺していたのかな、虫のことを考えてなかったな」と、田んぼに入って、 地面に顔を近づけることでまなざしが変わりました。

カエル顔

●田んぼには命の循環がある
無農薬の田んぼには農薬をつかう田んぼと比べ物にならないくらい生き物が増えることを実感しました。 会では、イトミミズとカエルの生きもの調査を年4回行なっています。普通の田んぼでは、1反(10アール、10m×100mの面積) に約200万匹のイトミミズがいますが、私たちの田んぼで多いところは3000~5000万匹のイトミミズがいます。これくらいいると、 田んぼで草が生えるのを抑えてくれます。
カエルがたくさん田んぼにいればイネの実を吸って黒い斑点をつけるカメムシを食べてくれます。また、クモがたくさんいれば、 イネの害虫を食べてくれます。生きもの調査は大変ですが、農薬を使わない農法がうまくいっているかどうかを知ることができます。
イネは田んぼの食物連鎖の中で育ちます。まったく虫がいない田んぼは、逆に言えば害虫が一気に増えやすい環境です。 田んぼで生まれる生きものはたくさんあり、たくさんの命が死に、それがみんな循環しています。田んぼは命を支え、 田んぼの中に命の循環ができています。田んぼでも畑でも、天敵となる生きものがいればバランスよく害虫も排除され、 農薬を減らすことができます。
「この米の田んぼにはこういう生きものがいますよ」というのが食べものの安心安全の指標になります。 エサとなる生きものがいないとトキも来ませんから、トキが舞い降りて来たということは、佐渡は生物多様性が豊かで、 人も生き物も住めるすばらしい環境と言えます。

●無理せずに楽しんで農業する
トキの田んぼを守る会では誰もが農業の経営の範囲で無理をすることなく、楽しんで生き物いっぱいの米栽培に取り組んでいます。
基本的には、肥料は化学肥料を使わず、すべて有機肥料をつかっています。有機肥料の方が、食味も栄養成分もよくなるからです。 無農薬の田んぼと、一般よりも5割~9割農薬を減らした減農薬田んぼで米づくりを行っています。不耕起栽培やふゆみずたんぼ(冬季湛水水田) は、生きものの力を利用して無農薬・減農薬栽培を行う農法です。食べものはおいしくなくてはいけません。 いくら安全性が高くてもまずければ誰も食べません。だから、できるだけ農薬を減らす努力をしながらも、 まずはおいしい米作りをめざしています。
田んぼには草がたくさん生える田んぼとそうでない田んぼがあります。最初から草が多いことが分かっている田んぼは、 除草剤を1回使用する減農薬栽培にします。また、ラジコンヘリなどで農薬散布する田んぼの近くは無農薬にならなくなるので、 そういうところを避けて無農薬栽培の田んぼを選びます。なにがなんでも無農薬でやろうとするのは労力的にも経済的にも辛すぎます。 生活のことを考えながら、できる範囲でやることにしています。
そうはいっても最初は大変でした。実際に無農薬・不耕起栽培を始めてみると学んだとおりにはいかず、最初の2年間田んぼは草だらけで毎日、 田んぼの中を這っていました。佐渡の人は生真面目ですから、無農薬と決めたら、最後まで無農薬です。しかしこれからは、もうダメと思ったら、 除草剤を勇気を出して撒くことも必要です。体を壊したら元も子もありません。
除草剤を使用するのとしないのでは天と地ほど労力が違いました。作業が楽になると思った不耕起栽培ですが、今でも草には手を焼いています。 (今でも雑草と共生中です。)
佐渡でも不耕起栽培で管理をまめに行って通常以上のお米を収穫している方もいます。草が生えないよう米ぬかを撒いたり、 小さいうちに草取りをするなど一年を通して季節や田んぼの状態に合わせた作業が重要です。 作業をひとつはぶくとその後の作業に尾を引いてきます。 雑草がイネに勝ってしまったからといって除草剤を使うわけではないので一年を通しての作業は手を抜けません。 

江のある田んぼ
(江のある田んぼ)

●連帯感のある農業、 顔の見える消費者
トキを守る田んぼの会は平成13年度に東京のNPO法人メダカの学校の協力もあって設立し、 現在は17名の会員がいます。
会では指導者を招いて勉強会をしたり、消費者との交流会や先進地へ研修に行ったり、 実験田んぼで栽培方法の研究などを行って共同作業も行っています。昔の農業は「結い」というお互いの助け合いがありましたが、 今の農業は個人の経営が中心で農家どうしのつながりは薄れていると思います。トキを守る田んぼの会では共同作業による連帯感があり、 困っているときに話し合いをしながら活動を進めたり、誰かが病気の時には手助けに行ったり、今年くじけそうになっても 「また来年にチャレンジせんかさ」と励ましあったりしたりして「心の結い」があります。自己満足ではなくて連帯感のある農業をしています。 集まりの時には必ず一緒にお酒を飲むのも大切なことですね。

それから、作ったからには売らなくてはいけません。買ってくれる人がいれば作る面積も増えます。一般のお米よりも高くなるのと、 不耕起栽培など「特殊」だと受けとめられて売り先を見つけるのが大変でした。今は、東京のNPOや個人の消費者、 佐渡出身者が経営する飲食チェーン店など田植えをした時点でほぼ売り先が決まっています。
このお米を食べることによってトキの野生復帰を応援できるという高い意識で買ってくれる人もいます。
これまでのお米づくりでは市場を通して自分のつくったお米が売られるので買ってくれる人の顔が見えませんでした。 トキの田んぼを守る会では生き物調査や草取りツアーで消費者の方々との交流を行っています。買ってくれる人とのつながりができることは、 私たち作り手の大きな励みになります。
消費者の顔が分かるからエネルギーが出てきます。つながりができて「がんばってください」と言われると、「がんばらんなん」 という気持ちになります。自己満足だけでは作れません。その人達が待っているから、私たちはがんばれると思っています。
トキが軸になってさまざまな人と出会えたり、島外から人が来てくれることが刺激的で楽しいです。
トキの田んぼを守る会に興味がある方は一緒に作業したり勉強しませんか。ご連絡ください。

草取り

●佐渡の環境と農業の理想
佐渡は農業には非常にいい環境があります。海洋性気候で一年を通して暖かく、いろいろな種類のおいしい農産物がとれます。シカ、サル、 イノシシなどの農業にとっての害獣もタヌキぐらいしかいません。
しかし、農業者が高齢化しているのに、農業だけでは暮らしていけないので若い人が農業に入ってきません。 佐渡は年々農業の生産量が減っています。また輸送費もかかるため、競争力がなく厳しい状況です。
農業は自然の中の産業なので、自然を理解し、自然の中で、自然と共存しながら、佐渡の自然環境を活かしながらやるのが理想だと思います。 そのためには、人と人とのつながり、生きものを大切にする目線や心が必要です。
ふたつの例を紹介します。
コウノトリの里、兵庫県豊岡市では生きもの調査で田んぼに子どもたちも帰ってきたと喜んでいます。農業の機械化が進み、田んぼから人が離れ、 ここ2、 30年のあいだに子どもたちの声が田んぼから聞こえなくなりました。 田んぼの生き物調査ではいつも子どもたちのにぎやかな声が田んぼに広がります。自然や生きものに接することは子どもの気持ちをおおらかに、 やさしくするのではないかと思います。
栃木県の茂木という地域では、じいちゃん、ばあちゃんが山掃除がてらたい肥用の落ち葉集めをしています。健康を保ちながら、 死ぬまで自然と元気に付き合っています。
佐渡の農業が子どもから高齢者まで自然と付き合える産業でありたいと思います。

こども

●トキも飛ぶし 、 人間も飛べばいいねかさ
小学校2年生まで行谷小学校にトキがいました。生きているトキを間近で見て、エサ場づくりなどで小さい頃からつながりがありました。 実は鳥は苦手ですが、トキだけは別の存在。親に「夕日の中で飛んでいるトキがきれいだ」という話は良く聞いたし、 はやく大空を飛んでいるところを見てみたいです。
佐渡には幸い他の地域がうらやむトキというシンボルがあります。トキの野生復帰を佐渡の人が応援している姿を見ていただくことで、 佐渡がそして農業が活性化できるのではないかと思っています。
トキが飛ぶことによって佐渡の環境がいいということを全国の人に知ってもらって、佐渡で獲れる食べもののすばらしさに出会い、 佐渡のファンになってほしいです。
「トキのブランドがあれば高く売れる」ということではなくて、トキや環境問題に取り組むことによって、 作物が結果的に買っていただけることになればいいのです。
日本の農業は農薬を減らすのが当たり前になり、収量を上げればいいというだけの意識だけでは難しくなります。 トキや環境問題について生産者一人一人が「思い」を持って作る意識が必要になります。
トキの野生復帰は佐渡にトキのエサとなる生きものがたくさんいないとできません。その生きものを一番多く育むところは田んぼです。 田んぼの生きものを増やすことと、その結果、経済的にも成り立つことで、島民が「トキも飛ぶし、佐渡の人間も飛べばいいねかさ」 とおおらかな気持ちになることがトキの野生復帰の成功につながると思います。島外の方には来て見て、佐渡で獲れた色々なものを食べて体験し、 そして佐渡を見守って、色々な意見を寄せてくれっちゃ。

トキの田んぼを守る会小
(佐渡トキの田んぼを守る会)

[ 掲載日 2007年08月07日 | 読みもの ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]