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■ トキ・メッセージ2  元・トキ保護センター長・近辻宏帰さん(後編)

 トキ・メッセージ2 トキを見続けて
元・トキ保護センター長・近辻宏帰さん

佐渡トキ保護センターでトキを見続けてきた近辻さん。前回は、トキへの想いや野生復帰の大切さについて教えていただきました。今回は、 トキという鳥の特徴について教えていただきます。


●人間に似ているトキ夫婦
トキという種を守り増やす仕事をとおして、トキとつきあえばつきあうほど、種としてのトキのすばらしさがわかりました。
トキという鳥は、いろんな行動をします。トキならではの行動ですが、それが人間の場合ととても似ていることに気がつきます。
トキのペアは一夫一婦です。繁殖期だけでなく、1年中ペアが仲良く寄り添っています。そうして、ペアの絆を示す行動をさかんにします。
私が「小枝渡し」と名づけた行動や、「相互羽づくろい」などの行動は、繁殖期だけでなく一年中します。        
小枝渡しというのはペアの相手に対して、小枝をくちばしで加えて持っていき、相手にさし渡す行動です。 小枝に限らず近くにある落ち葉でも持っていくのですが、最初はプレゼントなんだろうと思っていました。しかし、よく観察していると、 プレゼントというよりも、くちばしに物をくわえることで、「敵じゃないよ、仲間だから攻撃しないよ」、という意思表示だと分かったのです。 トキのくちばしは、長いので、ほかのトキを攻撃したり、傷つけることもできます。「そんなことはしないよ」 という意思表示の行為が日常的に行われます。
だから、よく慣れた飼育員にも小枝渡しをすることがあります。私も小枝渡しされたことがあります。
ペアでは、「擬交尾」もします。擬交尾とは、ペアの方に他のトキが不用意に近づいてきたら、 自分たちがペアであることを示すために交尾的行動をすることです。擬交尾は「ペアだから近づかないで」という意思表示の行動です。            
このような行為を見ていると、人間のようにも思えますし、人間以上にペアの絆を強めることを発達させた生き物だと思います。

今、世界では生物多様性が求められています、英語でバイオダィバシティと言います。私は自分で「バイオアイデンティティ」 という言葉を考えました。「種の同一性」という意味です。種は違っても、トキと人は本質的にはあまり変わらないように思うのです。 そういう生き物間の共通性を、トキと人の間に感じることがあります。

枝わたし
(写真提供 佐渡トキ保護センター) 


●オスメス平等なトキ
トキはオスメス平等です。オスは平均1.8キロ、メスは1.6キロとほんの少し差がありますが、 外見ではオスメスを区別することがむつかしいです。
もちろん、卵を産むのはメスしかできません。産卵は大変な負担ですが、温めるのはペアが交代で、どちらかというとオスが多く負担します。 暗くて交代できない夜はオスが抱卵します。卵を外敵から守るのはオスの役目です。 メスが抱卵していてオスがエサを採っている時に飼育員が入ると、ものすごい勢いでオスが飼育員を攻撃してきます。 卵やヒナの保護はオスの役目、そんなところも人間ととても似ていると思います。


●学習能力があって柔軟なトキ
トキは学習能力がものすごく高い鳥です。 かつて自然にいた佐渡のトキ個体群は、数が減るにしたがってとても用心深くなり、人間から離れるように山の中に入っていきました。 これも学習能力の高さです。
飼育員が入ると安心するのに、知らない人が近づくと警戒するように人間も見分けています。
さらに、行動対応が柔軟です。そのときどきの状況によって判断して、状況に合わせて生きようとします。 トキが渡りをするグループと渡りをしないグループに分かれたり、寒いところから暖かいところまでに生息エリアを広げたのも、 トキの柔軟性です。
トキの柔軟性は、ペアリングの際によく分かります。なるべく遺伝子の遠いオスとメスを選別し て一緒にするとだいたいペアになります。 コウノトリの場合は、気に入らないとオスが相手を殺してしまうこともあるそうです。 トキは融通がきいて状況を受け入れやすい特性を持っています。
日本産最後のオスのミドリは、繁殖のために時期を変えて4羽のメスをあてがわれました。残念ながら子孫を残すことはできませんでしたが、 その4羽それぞれと繁殖行動をとりました。それをみても、トキの柔軟性を感じます。


●常識破りなトキ
トキは常識破りな鳥です。トキ以外のトキ亜科の鳥は、ほとんど熱帯や亜熱帯に生息します。トキは、 寒いところから暖かいところまで広い範囲に生息していました。トキ界では常識破りです。種として、 いろんな戦略で適応してきたといえるでしょう。
それだけではありません。鳥の世界では、繁殖期への羽色変化は一般的です。ところが、トキは、 冬羽になるための換羽はしますが繁殖羽へのための換羽はしません。着色行動をあみだしました。だからトキは鳥界でも変わりものです。


●着色行動
トキは、冬、繁殖の2カ月くらい前から、着色行動をして、白い首や羽の部分を黒くします。この着色行動は、 白い和紙に墨で字や絵を描くのと似ています。頭頸部に2ミリくらいの黒い物質が浮き出てきます。水あびをして羽毛をぬらして、 その物質を墨をぬるようにしてこすりつけて広げます。ホルモンの関係だと思いますが、その物質の色はだんだん濃くなってきます。 最初は頭部側面あたりが黒くなり、次に首の届く範囲が色づきます。
オスもメスも同じようにやるので、性別による行動ではありません。オスが鮮やかな羽色になる鳥は多いですが、トキはオス・ メスとも同じように色がつきます。この着色行動は、上空からの外敵に対する対策だろうと思います。卵を抱くために巣にいるとき、 黒いと背景にとけ込みます。抱卵期の4月中は、営巣樹のある林は葉が繁らず明るい状態にあります。 トキの身体の上半分が黒ければ背景にとけこみ、上空からの外敵の目をくらませる効果があるものと判断しています。

トキがじっとしてると背景にまぎれます。私も観察していて、メモをとって再度顔を上げて見ると、どこだっけ、 と一瞬わからなくなったことが何度もありました。
色トキ
(写真提供 佐渡トキ保護センター)  

 

[ 掲載日 2007年04月05日 | 読みもの ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]