■ 「トキを見た!」地域の人の声 -高千地区-
高千(たかち)地区は、佐渡の北海岸に面している地域です。2009年9月に放鳥されたトキのうち1羽が、
2009年11月上旬に高千地区に滞在しました。
これまで放鳥トキは、佐渡の中央部と南部で確認されていたため、高千地区でトキが確認されたことは、
佐渡の人たちにとって驚きのニュースでした。今回はトキの目撃情報をトキ交流会館に寄せてくださった、高千地区の能登卯一(のと ういち)
さんにお話を聞きました。(聞き取り 佐渡トキファンクラブ)

(トキが利用した場所を説明する、能登さん)
●朝日のかかった美しい姿
私は高千地区でお米作りと漁をしています。毎朝、田んぼと海を見てまわるのが日課です。11月6日の朝6時すぎ、
いつものように車に乗って田んぼをまわっていると、田んぼから大きな鳥が飛び立ちました。春に来る白サギとは違うし、
羽をゆっくりと羽ばたかせて飛んでいきます。漁で使う双眼鏡で見ると、赤い顔と、背中に付いたアンテナから「トキだ」と分かりました。
私がトキを見たのは生まれて初めてです。トキは、白とも言えない、朝日がかかったような色をしていて、見たときには「これは宝だなぁ」
と思いました。放鳥されたトキが、高千地区の方まで来るとは思っていませんでした。中央部の方でトキの行方が捜されているだろうから、
高千地区に来ていることを連絡しなくてはと思いました。トキ交流会館のトキ目撃情報受付時間になるのが待ち遠しかったです。
放鳥トキの写真:提供・環境省

(高千地区に飛来したトキNo.31。向こうに見えるのは海)
●ドンデン山のふもと、
海を見渡す田んぼ
高千地区は大佐渡山脈のふもとにあります。山を背に集落があり、目の前には海、切り立った斜面の上に田んぼがあって、
山すそまで続いています。
家に戻り庭先で菜っ葉を洗っていると、山側の枯れ木にトキを見つけました。旋回して山側に消えたので行ってみると、
朝と同じ田んぼにいました。
佐渡では、全島で環境に配慮したお米作りをしています。高千地区の田んぼも農薬と化学肥料の使用を減らし、有機肥料を使っています。
トキがいた田んぼは、サギもよく来るところで、タニシやカエルがたくさんいます。稲刈りが終わったので、田んぼの水はせき止めていましたが、
その田んぼは水が集まりやすい場所でした。田んぼの所有者に聞いたら「ドジョウもいるよ」と話していました。
トキはエサとなる生きもののいる場所が本能的に分かるのかもしれません。田んぼの所有者にトキのことを話して、
エサになる生きものが絶えないように、田んぼに水を張らせてもらいました。
トキはねぐらにしていたのは田んぼの水が集まって滝になっている沢でした。沢は海岸に面し、近くに民家がありますが、人の目につきにくく、
うまく風があたらないところです。

(トキがよく利用していた田んぼ)
●とても神経質
トキは、日中は、田んぼを見渡せる木にとまり、人がいないのを確認してから、田んぼに下りてエサをとります。木にとまっているときは、
人が80mくらいまで接近してもキョロキョロして警戒するだけですが、田んぼに下りているときは、人影を見るとすぐに逃げます。私は、
トキがいないか確認してから田んぼに行ったり、遠くの道を利用したりして、トキをおびやかさないように気をつけました。でも、
やっぱりトキの方が人間に早く気が付きます。
●たくさんの人が来るようになった
私がとにかくよく田んぼに通っていたので、地域のおばあさんたちに「何かいいことがあったのー?」と聞かれるようになりました。
理由を話すと、おばあさんたちは、「昔は高千地区にもトキがいて、よく見ていたよ」と話していました。日が経つにつれ、
高千地区にトキがいることが広まり、地区外からもトキを見に来る人が多くなりました。1週間くらいした風の強い日のこと、
相川地区へ出かけた帰り道にトキが目の前を飛んでいくのを見ました。その日から高千地区でトキを見かけなくなったので、山はもう雪だし、
海岸沿いに国仲へ帰ったんじゃないかなと思いました。

(空を見上げる能登さん。トキは、背後の山の木とまって、周囲を見渡していることもありました)
●トキが新穂地区に戻ったのを聞いて
高千地区にいたトキが、新穂地区でほかのトキと一緒にいると聞いて安心しました。1週間高千地区にいたので、
今どうしているかやはり気になります。やはり1羽よりは大勢といる方が気強くおれるでしょうから。
地域のみんなもトキが来て喜んでいました。今度トキが来たら、農薬をやめなきゃいけないなぁとか、エサが豊富になるように、
秋になったら水を張って、江も掘ってやらんなんなとか、みんなで笑いながらトキの話をしています。知り合いから「能登さん、
今日はトキみかけたか」と電話があったり、トキの話題がいっぱいです。
今でもトキが高千地区にまた来ているんじゃないかと、枯れ木を見上げます。春になったら、
今度は仲間をつれてまた高千地区に来てほしいと思っています。

(仲間たちと一緒になったNo.31)
