■ トキ・メッセージ14 トキの島再生研究プロジェクト
今回のトキ・メッセージは「トキの島再生研究プロジェクト」について、プロジェクトリーダーの九州大学教授・島谷幸宏さんと、
九州大学助教・河口洋一さんにお話しを聞くとともに、プロジェクトが開催する「談義所」
を佐渡島内で一番最初に開催した岩首地区の岩首小学校の有効利用を考える会・大石惣一郎さんにもお話しを聞きました。
トキの島再生研究プロジェクトとは、環境省の地球環境研究総合推進費によって平成19年から21年までの3年間にわたって行われる5大学、
2機関が連携した大きなプロジェクトです。正式名称は「トキの野生復帰のための持続可能な自然再生計画の立案とその社会的手続き」です。
現在、佐渡島内各地で、研究者が川や田んぼに入って調査したり、地域の人たちと話し合う談義所を開催したりと、幅広い活動を行っています。
(インタビュー・文責:トキファンクラブ事務局)

(中国のトキ 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
●このプロジェクトの内容を教えてください。
島谷:トキは今年から試験放鳥です。トキが本当に佐渡に住んでいくにはどのような自然が戻ればいいのか、
どのような社会がそれを受けられるのか、そのための自然再生計画の立案とそれを社会に定着させるための2つの側面から研究をしています。
トキの野生復帰のためには、いろんな学問の人が協働する必要があります。このプロジェクトは九州大学、東京大学、新潟大学、埼玉大学、
東京工業大学の5大学と、山階鳥類研究所、国立環境研究所の2つ機関が協働しています。
今まで研究者が個別に行っていた研究を連携して社会に還元しようというのがこの研究の特徴です。川づくり、魚、昆虫、鳥、環境哲学、
環境教育、自然再生、景観、住民参加などの専門家がメンバーとして集まっています。
生物系と工学系と文科系の人が連動して行う研究は初めてのことで、学術的にも価値があります。
大きな研究チームとして、幅広い視点で研究し、それをつなぐことが重要です。
これまで行政機関でとられているデータなども連携して一緒に報告としてとりまとめようと考えています。

(ピットタグ挿入と、ピットタグ読み取りアンテナ 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
●おふたりの研究内容を教えてください。
島谷:私は河川工学の研究者で、自然再生を専門にしています。
たとえば、トキのエサ生物のドジョウについて、川や水路、田んぼにある段差をつなげるとどのくらい魚が増えるかを調査しています。
ドジョウに小さいタグを入れて識別できるようにします。このドジョウがゲートを通るとカウントできるようにしています。この調査で、
どういった時期に河川、水路、水田が通じているか、どういった時期に魚たちが移動するか、
雨が降ったらドジョウが登るということを数値で示せます。魚道を作ったことで、本当にドジョウが登ったのか、
今まで分からなかったものをきちんと分かるようにする研究です。
同時に、自然再生も行います。川と水路や田んぼには段差や門がありますが、これは人が利用しやすいように農地を圃場整備したり、
川を整備してきた結果です。魚が水路と水田を行き来できないからと魚道をつけたり、川にも魚道をつけたりしますが、川だけを考えたり、
田んぼと水路の間だけを考えたのでは効果は薄くなります。河川も、農地も連携して、
地域に理解していただいて全部をつなげて取り組む必要があります。そのために、効果を検証する必要があります。
実は、自然そのものを研究する研究者は多くいますが、私のような自然を技術的に再生する研究者はまだ日本では少数ないのです。

(魚道の設置:このような自然修復は、農業用排水に影響が出ないよう考慮しています。 写真提供:
トキの島再生研究プロジェクト)
河口:実は私は新潟大学の出身です。今回のプロジェクトメンバーである新潟大学の関島恒夫准教授の研究室で学びました。
関島先生に誘われまして佐渡で研究をしています。これまでにもトキのエサ生物について研究が行われていますが、今回はなるべく広域的に、
将来は佐渡全域を考えながら、まず、野生復帰ステーション、小佐渡東部を中心に川や水田にどのくらい魚がいるかなど現地調査をしています。
今、佐渡でトキのエサとなるような生きものがどの程度いるのか、全体の量を推定しようと考えています。
研究手法としても新しい方法を取り入れて、常に同じ結果が比較できるようなデータの取り方をしています。たとえば、魚を捕る道具は、
川に微量の電気を流すアメリカ製の機械を用いて、魚を一時的にしびれさせてすくい取る方法で魚を死なせることもありませんし、
誰がやっても同じように魚が獲れます。この方法で魚を獲ると、魚の量について場所や川ごとの比較ができます。

(河川調査のようす 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
島谷:先ほども言いましたが、このプロジェクトは自然分野だけでなく、いろんな分野の研究者が連携しています。
今までは個別の研究者がすばらしい研究をされていますが、それをまとめて情報を一緒にして、社会に還元するという研究が必要です。連携は、
日本だけではありません。日本では野生のトキはいません。しかし、中国では野生の状況になっています。中国の情報も入れています。もちろん、
佐渡のトキが中国のトキと同じような動きをするかどうかは分かりません。試験放鳥後のトキの情報も必要です。社会分野では、
東工大のグループが「談義所」をつくっていろいろな人たちと話し合いをしながらトキと佐渡の関係を明らかにしようとしています。今度、
漁協の人たちと一緒にNPO法人をつくろうとしています。そういう取り組みや、岩首地区の竹明かりの取り組みなどが一体化しながら、
自然と人の暮らしが共生する社会をみんなに理解されることが必要です。研究者間での連携、研究者と社会の連携、行政間の連携などが必要です。
私たちは、その間に入って連携のつながりができればいいという気持ちでやっています。
だから、プロジェクトは3年間ですが、その後も私たちが佐渡の研究を停めることはできず、
ずっと関わっていくことになるだろうと考えています。

(中国の野生のトキ 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
●佐渡の印象はいかがですか?
河口:学生の山下君は大分県で生きもの調査をしていましたが、
佐渡は生きものの種類や量が多いと言います。環境が悪くなっているところはたしかにありますが、他の地域と比べていいです。
島谷:生きものは季節を教えてくれます。都会にいると季節が関係なくなります。生きものがいる環境はすばらしいです。
私がこのプロジェクトに関わった理由のひとつは、
トキのようなシンボルの鳥を中心としてこの自然と人間の付き合い方を考えなおすいいチャンスだと思ったからです。
この地域が元気になっていったり、トキだけじゃなくほかの自然も再生できたりします。日本だけではなく世界でも、21世紀の人類の課題は、
自然との付き合い方をどうやって取り戻していくのか、自然と共生した新しい暮らしをどうするかということです。これは、
地球温暖化問題も含めて非常に大きな課題です。それを解決する糸口が佐渡にあるんじゃないかと期待しています。これは、
研究としての魅力でもあります。

(採餌する中国トキ 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
●トキの野生復帰に向けて、今、佐渡の環境はどうでしょうか?
島谷:佐渡ではトキの野生復帰に向けてまだまだ生きものの量は少ないです。みかけは佐渡でも自然がいっぱいあるように見えますが、
生きものを調べると、種類はいますが量の面では圧倒的に多いわけではありません。これは、
たとえば水の生きものでは河川の改修や圃場整備の結果、それぞれのつながりが減ったことに理由があります。川は治水のため、
田んぼは稲を作ること場所と、すべてを単機能にしています。昔はすべて多機能でした。田んぼは米を作ると同時に魚を獲るための場所でした。
これからはそれを逆にしていかないといけません。人がそこに生きていながら、川や田んぼなどの自然を元に戻すということは、
人の暮らしを少しは変えないといけないことなので、そこが課題です。しかし、これは佐渡だけでなく日本全体の課題なのです。
今、石油の価格が上がり、エネルギー多消費型の暮らしを変える時代の転換点にきています。そのなかで、
トキをめぐる自然と人との関わり方の見直しは、次の社会を見直すきっかけです。佐渡にはそれを期待しています。

(岩首地区の棚田)
●トキの野生復帰に向けてのメッセージを
島谷:日本全国を回っていますが、最近、自然を元に戻したいとか自然を再生したという人が非常に増えてきています。
佐渡でもトキが放鳥されると佐渡の皆さんが大きく変わるだろうと思います。実は、
佐渡の人が野生にトキが放たれることに実感を持っていないことに驚いています。トキが野生に放されたとたん、
日本中から多くの人が佐渡に来て大変なことになるでしょう。「観光客増えるの?」と聞く人がいますが、
信じられないくらい多くの人が来ると思います。トキはどこに巣を作るか分かりませんが、営巣もするでしょうし、
途中でトキが死ぬこともあるでしょう。そういうことも経験しながら佐渡の人がトキと共生することになります。
日本でトキが野生復帰されるのは佐渡だけです。それをうらやましいと思っている人が世の中にたくさんいます。
佐渡の人はそのことを知りません。こんなすばらしいことが佐渡でおきることを、佐渡の人はもっと面白がった方がいいと私は思っています。
トキが飛んだら楽しいですよ。ぜひみんなでかわいがりましょう。
ただし、島外から人がたくさん来るので、それで環境が劣化しないような準備はしておきましょう。それがとても心配です。
たとえばトキがとまったら、みんな見に来て写真撮ると思います。駐車場を貸してくれとか、
いろんなことが起きると思います環境にやさしい駐車場のあり方とか、看板のルールとか、トキとの距離のルールなども必要になります。
人がたくさん来ることに心構えしておいたほうがいいです。もちろん、どういうおもてなしをするかというところも含めてです。

(岩首談義のようす 写真提供:トキの島再生研究プロジェクト)
●旧 岩首小学校校舎で談義所を開設したいきさつを教えてください。
大石:岩首小学校は、昭和20年代に建てられた木造校舎です。地区の人みんなの思い出が詰まった桜の美しい小さな学校でしたが、
2007年に廃校になりました。
地区の中心にある建物が廃屋になれば、地区の活気も今以上に下がります。そこで、これからの地域のあり方や、トキと地域の関係、
岩首小学校校舎の今後の利用について、トキの専門家である研究グループのメンバーを交えて地域の人たちと話し合いたいと思いました。
2007年6月に、第1回目の談義を行いました。その結果、旧・校舎を地域で管理活用できるよう市に要望し、受け入れていただきました。
「岩首談義所」として、地区で校舎を管理し、人が集まったり、地区外の人との交流の場として活用することになりました。
昨年はのべ約3000人が利用し、現在はほぼ毎日一般開放しています。

(旧・小学校校舎に飾られた竹灯り)
●昨年、岩首地区で竹灯りのイベントが話題でしたが。
大石:岩首地区だけでなく、竹林の荒廃は各地の悩みです。そこで、地区内の竹林の竹を利用して、旧岩首小学校の校庭や、
神社の参道に1200本の竹の灯籠(とうろう)を飾りました。地区内外から200人ほどの見物客があり、
地区の子どもやお年寄りも見に来てくれました。準備に協力してくれた研究グループの大学生も感激していました。
今年は地域の人たちの協力を得て灯籠を増やして開催したいと計画しています。
談義所によって地区の人たちが集い、地区のことについて考える機会ができました。校舎の清掃を呼びかけに、
地区の多くの人たちがボランティアで参加してくれたり、今年の竹明かりに向けての準備に声をかけてくれる人もいたり、
地域が少しずつ変化しています。これからも、トキの野生復帰のためのビオトープ作りや談義所での活動を続けていきます。
