■ トキ・メッセージ12 UX新潟テレビ21 TeamECOときプロジェクト
UX新潟テレビ21が行っているTeamECOときプロジェクトは、トキが再び空を舞う佐渡を目指して、
佐渡の5つの地区でボランティアによるビオトープづくり・棚田の整備・環境保全型の米づくりなどを行っています。ときプロジェクトについて、
TeamECO推進部の近正仁(こん まさひと)さんと、受け入れをしている5地区のうち、片野尾地区と月布施地区の方に聞きました。
片野尾地区は農家の金子輝雄さんと、トキ舞株式会社・代表取締役の小田誠さん。月布施地区は月布施を考える会・代表の三浦正道さんです。
(インタビュー・文責:トキファンクラブ事務局)

(ときプロジェクト作業地 トキの看板)
●TeamECO「ときプロジェクト」
UX新潟テレビ21は2001年に「TeamECO」宣言をし、環境活動に取り組んでいます。環境についての番組や、講演を企画するほか、
“今出来ること、身近なところから”を合言葉に一般の参加者を募り「エコワーク」として、ごみ拾いや里山整備など美化運動を行っています。
2003年に佐渡でトキの野生復帰に向けた環境整備をお手伝いする「ときプロジェクト」をスタートさせました。
UX新潟テレビ21には、トキに思いを持つ人間が多くいます。UX新潟テレビ21(当時の呼称:NT21)は1983年に開局し、
開局当時の記者は私を含めほとんどが23、24歳の若者でした。駆け出しの記者のころ、佐渡でトキに関するニュースがあるたびに海を渡り、
取材をしました。日本最後のトキが保護増殖のため全鳥捕獲されたのは開局以前のことで、取材している当時は日本生まれのトキ「ミドリ」や
「キン」もいて、「これが増えていつかまた空に放すんだろう」と思っていました。キンが最後の一羽となり、
中国から新たなペアが来て繁殖しましたが、取材を通してトキの動きを見てきた私たち同世代スタッフは、
日本産のトキがいなくなったことに何か引っかかっていました。
テレビ局としてトキのことを視聴者に伝えることとは別に、自分たちが何かできないかという思いが強くありました。
そこで、UXが社会貢献の一環として行っているTeamECOで「ときプロジェクト」が企画されたのです。
TeamECOは “TeamECOメンバー”企業13社の協賛で活動しています。「ときプロジェクト」の提案にも、
各企業がこころよく賛同していただきました。

(小倉地区 ベテランの技)
●地元とボランティアをつなぐ
TeamECOときプロジェクトの最初の課題は地元の協力者を探すことでした。佐渡の農家の現状は高齢化や米の低価格によって、
田んぼを維持するのに精一杯です。そこへまだ飛んでもいないトキのために農薬を減らしてほしい、有機肥料でやってほしい、
使用しなくなった田んぼをトキのエサ場にさせてほしいというのですから断られてもおかしくありません。しかし「小さいときにはトキを見たし、
佐渡のためにもなるし、うちの田んぼを使っていいよ」という方々がいました。今は、小倉、久知河内、生椿、月布施、片野尾の5地区で、
地元の方々と一緒に活動を行っています。
取り組みにあたっては、
地区の活動団体が立ち上げたトキと自然と農業の共生をすすめる会やNPO法人トキの島に準備や調整などの協力をしていただきました。
TeamECOときプロジェクトも2008年で6年目を迎え、地元受け入れ側の恒例行事となっています。

(うね作り)
現在、TeamECOときプロジェクトのボランティア会員は260名を超えました。入会や会費は無料です。全国各地から参加があり、
小学生から75歳を超える方まで、ひとりでの参加から、友達同士、夫婦や家族、学校や子ども会など参加のしかたもさまざまです。
ほとんどの方は農業の経験がありませんが、活動していくうちにカマや草刈り機などの使い方が上手になります。
1回の作業は土曜日と日曜日の1泊2日で、土曜日の午後と日曜日の午前中に活動をしています。定員は40名程度です。
1年に15回ほど作業日があり、好きな作業日に申し込んで参加します。何かを無心にやりたいと黙々と作業する方や、
佐渡のいい空気の中にいると体調も気分も爽快になるから来ているという方もいます。
毎年参加する方も大勢います。それは、佐渡の景色と食べもの、人の魅力です。地元で受け入れる方々の多くは、
野生のトキを見た経験を持っています。生椿地区の高野毅さんは雨が降ると棚田につづく小屋で昔のトキや山についての話をしてくれます。
久知河内地区では、作業の合間にかつて保育園だった木造の公民館を使用して地元の人と交流します。
小倉地区で高齢ながら環境保全型農業を受け入れてくれた夫妻の田んぼはダムと棚田が眼下に広がり、上には千枚田があってすばらしい景色です。
5地区とも作業だけではない魅力があります。
TeamECOときプロジェクトは、「環境保全の取り組み」だけでなく、佐渡のよさを伝え、多くの人に佐渡に来てもらうための、
地元とボランティアをつなぐ取り組みだと思います。自然の中で作業をすれば泥にまみれたり、ヘビやヒル、
ブヨなどの自然の中の生きもの達に驚くこともありますが、佐渡の自然や人にふれ合うなかで、「トキが自然にもどってくるには、
佐渡のこんな感じがいいのかな、こういうことがトキや私たちに大事なのかな」と感じてもらえると思います。
○TeamECO ときプロジェクトについてのお問い合わせは
TeamECO推進部
電話:025-223-8633 (平日10:00~17:30)
UX新潟テレビ21 TeamECO ホームページ
http://uxtv.jp/eco/

(1981年 片野尾の空を飛ぶトキ 金子輝雄氏撮影)
●片野尾地区とトキとの関わり
片野尾地区は、
佐渡に5羽残った日本の野生のトキが最後に営巣していたところです。隣の月布施地区へ通じる大平山はトキのねぐらでした。当時、
片野尾地区の7名の若い奥さんたちが新潟県の依頼で、山にトキのエサ場を作りました。ドジョウを入れた一斗缶を背負い、
せまく悪い道を1時間ほどかけて登りました。ドジョウがすみやすいよう沼をクワで耕したり、ロープをつけて石を引き、
やわらかな田んぼにするなどの作業もしたそうです。地区にはトキ監視員をしていた若いおかあさんもいて、
今も野生のトキについてその頃のいろいろな話を聞かせてくれます。
片野尾地区は海岸沿いに家々が連なり、背後の山に棚田が広がっています。高齢化などで放棄田が増えれば地すべりが起き、
家々が危険にさらされます。そこで2002年に地区の若い人たちがとき舞生産組合(現:とき舞株式会社)を立ち上げました。
耕作できなくなった人の田んぼを引き受けて耕作し田んぼを守ります。「とき舞」という名前は、地区に再びトキが舞ってもらいたいという、
生産組合を立ち上げるときに集まったみんなの願いです。とき舞生産組合はトキがすめる、環境にやさしい農法に取り組んで6年目になります。

(片野尾地区 作業地を見上げる)
●片野尾地区でのTeamECOときプロジェクト
生産組合の立ち上げと同年に、
TeamECOときプロジェクトが始まり、この要請を受け入れることにしました。地区では、無農薬・無化学肥料栽培の米づくり、
ビオトープづくり、ドジョウ養殖池づくりをしています。ときプロジェクトの作業は年に数回ですが、1人や2人だと何日もかかる作業を、
大勢で行うので本当に助かります。ボランティアが来てくれることで、環境を保全する取り組みを続ける元気をもらえます。
作業以外の点でも、ボランティアの人たちから、地区全体にいい影響をもらっています。
ときプロジェクトのボランティアが何度も地区に来てくれているようすを、地区の人が見たり関わったりすることで、
地区に環境を守る取り組みや環境保全型の農業への理解が進んでいます。人と人が交流できることは貴重なことで、
TeamECOときプロジェクトに感謝していることのひとつです。

(クワの上手な使い方を、高校生に手ほどき)
だから、山で作業する以外にも美しい海を持つ片野尾地区のよさを感じてもらいたいと、作業前に船を出して魚釣りをすることもあります。
1日目の作業の夜には囲炉裏をかこんで交流会をしています。わきあいあいとした時間のなかで、片野尾や佐渡のことも話します。
おけさ踊りや郷土芸能である「片野尾歌舞伎」を披露してしまうこともあります。ボランティアの人たちは家族や親友のようなものです。
ときプロジェクトのおかげで、草地になっていた田んぼがビオトープに生まれ変わりました。最初のころ無農薬・無化学肥料栽培の米づくりは、
雑草が出るため何度も田んぼへ入り苦労しました。無農薬・無化学肥料栽培の米づくりは手間ひまがかかるので、農家がなかなかふみきれません。
これまでの経験を活かして、早く栽培技術を確立し、環境によい安全・安心なお米が評価されて売れるしくみをつくり、
地区の人が安心して取り組めるようにしていきたいと思っています。
片野尾には都会にはない、きれいな棚田の風景があります。自然の中できれいな空気をいっぱい吸うことができますので、
みなさんも時間があったらどうかぜひ一度お手伝いにきてください。
●月布施地区でのTeamECOときプロジェクト
月布施を考える会は地区のことを若い人たちが一緒に話し合おうと1999年に発足しました。月布施地区は私たちが子どものころと比べ、
作られなくなった田んぼがたくさんありました。地区で土砂崩れなどがおきていたこともあり、月布施地区の美しい景観を維持し、
元に戻したいという気持ちから地区の環境整備にも取り組んでいました。

(月布施地区 ときプロジェクトビオトープ)
TeamECOときプロジェクトは、月布施を考える会が目指すものと同じだと思い引き受けました。
放棄される田んぼを多くの人の力によって維持できれば集落の安全につながるし、多くの方との交流もできます。
ときプロジェクトのビオトープは山を登った木々の中にあります。その場所で最後までお米を作っていた人が田んぼをやめることになり、
「NPO法人トキの島」の事務局の人が、そこを借り受けて田んぼを始めていました。
ときプロジェクトでその続きの放棄された田んぼをビオトープにしています。使われていた田んぼ以外は数十年ほど放棄されていた田んぼです。
木が生え、カヤが茂り、奥がみえないほどになっていました。ボランティアと地元の人で、まずカヤを刈り、クワで根っこを起こして田を耕し、
畦を塗ります。水を入れてようやくビオトープができます。2年がかりで棚田が姿を現しました。この何枚ものビオトープが広がる美しい風景は、
ボランティアと地元の人たちが手を使って大変な作業をして広げたものです。みんなで成しとげてきた思いで、エピソード、疲れや汗、
達成感がつまっています。ボランティアのみんなとは仲間みたいな気持ちです。

(森林の整備)
TeamECOときプロジェクトの中でも、月布施の作業が一番ハードです。それでも、
きつくても達成感があるのでみんなが来るんじゃないかと思います。ほとんど毎回参加してくれている年配のご夫婦もいます。
2日目のお昼に食べるのは、きまって“月布施カレー”です。月布施のお母さんたちが作って作業地まで運んでくれ、作業を終えたあと、
山で食べるのがおいしいです。
●月布施にとってのボランティア
放棄した田んぼを復田したり整備地を広げることは、
地区の人数だけではとてもできません。ボランティアが来てくれることで、はじめて取り組めます。ビオトープの管理についても、
次にボランティアの人たちが来てくれたときにきれいな状態で見せたいという気持ちもあって、地元の意識も続きます。
ときプロジェクトでボランティアが来るのは年に数回ですが、「地域に人が来る」ことが大切です。
ボランティアが作業に来ることを地区の人に呼びかけると、毎回誰かが都合をつけて手伝いに来てくれます。
人が来てくれることで地元も動きます。それに、地区の人にとって楽しみでもあります。

(ビオトープになる前、ヤブだったころ)
受け入れを始めて、最近は地区の中で「ボランティア」の考え方が理解されてきました。「ボランティアで」と呼びかけると、
気楽に出て来てくれる人がいます。地区の中から「ボランティアとして出ますよ」という声が上がります。
実際には、昔から親戚とか地区の活動で、報酬を抜きに何かすることはありますが、ボランティアという考え方ではありません。
ボランティアを受け入れたり、自分たちが一緒に参加することによって「気張らず、自分のできる範囲で協力することによって、大きな力になる」
というボランティアの考え方を知りました。そのボランティア意識が世の中に広がっているのだということも分かり、
ボランティアを受け入れる意識と、参加者としての意識が出てきました。
「俺、こんだけしかできんけど」と言いながら、地区の人が自分のできることをしようと来てくれる。
ときプロジェクトのボランティアの人たちも、地元の人たちも、本当に気持ちで来て作業を一緒にしてくれる。本当にありがたいことです。
今、月布施のTeamECO ときプロジェクトでは、ビオトープ周りの森林整備を始めています。
生きものがビオトープを利用してくらすためには、周辺の川や山も手入れして、ビオトープから陸地、
そして次のビオトープへとつながっていることが必要です。ビオトープ周辺の木々には光が差し込み、鳥たちが飛びまわるようになっています。
今年もボランティアのみなさんと作業をすすめて、きれいな山に囲まれたビオトープをつくっていきたいと思います。
